昭和から令和へ:「すてき」から「インスタ映え」まで美的センスを表す言葉の変遷と時代背景

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「すてき」から「インスタ映え」まで:美的センスを表す言葉の時代変遷

私たちの日常会話や雑誌、テレビ、最近ではSNSなどで頻繁に目にする美的センスを表す言葉。「すてき!」「ハイセンス!」「オシャレ!」など、時代によって流行する表現は変化し続けています。こうした言葉の変遷には、その時代の価値観や社会背景が色濃く反映されています。今回は、昭和から令和にかけて変化してきた美的センスを表す言葉の歴史を紐解いていきましょう。

昭和初期〜中期:「モダン」と「ハイカラ」の時代

戦前から昭和30年代にかけて、美的センスを表す言葉として「モダン」や「ハイカラ」が広く使われていました。「ハイカラ」は英語の “high collar”(高い襟)に由来し、西洋風の洗練された様子を表現していました。当時の日本人にとって、西洋的なものは憧れであり、美の基準でもあったのです。

また、昭和30年代には「シック」という言葉も登場します。フランス語の「chic」に由来するこの言葉は、上品で洗練された美しさを表し、特に都会的なセンスを持つ人々に好まれました。

昭和40年代〜50年代:「すてき」全盛期の到来

高度経済成長期に入ると「すてき」という表現が爆発的に普及しました。この時代、「すてき」は単なる美しさだけでなく、憧れや賞賛の気持ちを含んだ、より情緒的な美的センス表現として定着しました。特に女性誌では「すてきな生き方」「すてきなインテリア」など、理想的なライフスタイルを表す言葉として頻繁に使用されていました。

国立国語研究所の調査によると、1970年代の女性雑誌では「すてき」の使用頻度が1960年代と比較して約3倍に増加したというデータもあります。「すてき」は単なる美的表現を超え、時代の憧れを象徴する言葉となったのです。

昭和後期〜平成初期:「ハイセンス」の台頭

1980年代になると、バブル経済の影響もあり、より洗練された美的感覚を表す「ハイセンス」という言葉が流行します。「ハイセンス」は単なる美しさではなく、知性や教養に裏打ちされた洗練された美的判断力を意味していました。

この時期の特徴として、美的センスと社会的ステータスが強く結びついていたことが挙げられます。「ハイセンス」な人物とは、良い教育を受け、洗練された趣味を持ち、経済的にも余裕がある人を指すことが多かったのです。ファッション誌『JJ』や『anan』などでは「ハイセンスなコーディネート」「ハイセンスな女性になるために」といった特集が組まれていました。

平成中期:「オシャレ」の大衆化

1990年代後半から2000年代にかけて、「オシャレ」という表現が広く使われるようになりました。「オシャレ」は「お洒落」の表記から変化した言葉で、より親しみやすく、大衆的な美的センスを表現するようになりました。

この時期の特徴は、美的センスの「民主化」とも言えるでしょう。インターネットの普及により情報アクセスが容易になり、高価なブランド品だけでなく、ユニクロやH&Mなどの「ファストファッション」でも「オシャレ」が実現できるという価値観が広まりました。「ミックスコーデ」や「プチプラオシャレ」といった言葉も生まれ、経済的な制約に縛られない美的センスの表現方法が模索されるようになったのです。

平成後期〜令和:「インスタ映え」と「エモい」の時代へ

SNSの普及、特にInstagramの台頭により、2010年代半ばからは「インスタ映え」という表現が生まれました。これは単に美しいだけでなく、写真として撮影したときに視覚的なインパクトがあることを意味します。2017年には「インスタ映え」が新語・流行語大賞に選ばれるほどの社会現象となりました。

最近では「エモい」という感性表現も若者を中心に広がっています。「エモい」は英語の「emotional」に由来し、単なる美しさではなく、感情を揺さぶるような独特の雰囲気や情緒を表現する言葉として使われています。

このように美的センスを表す言葉は、時代とともに変化し、その時々の社会状況や価値観を反映してきました。言葉の変遷を追うことで、私たちの美意識の変化や社会の移り変わりを垣間見ることができるのです。

昭和の「すてき」と「ハイセンス」:美的言葉のルーツを探る

「すてき」の誕生と昭和初期の用法

「すてき」という言葉は、英語の「stunning(驚くべき)」に由来するという説が有力です。明治時代に外来語として日本に入り、当初は「すてんでぃんぐ」と発音されていたものが、日本語化する過程で「すてき」に変化したとされています。大正から昭和初期にかけて、この言葉は主に上流階級や知識層の間で使われ始めました。

昭和初期の文学作品や雑誌を調査すると、「すてき」は単なる「きれい」以上の意味を持っていたことがわかります。例えば、1930年代の婦人雑誌『主婦之友』では、「すてきな室内装飾」「すてきな洋装」といった使われ方が見られ、西洋的な洗練さや新しさを含意していました。

「ハイセンス」の登場と高度経済成長期

「ハイセンス」という表現が一般に広まったのは、昭和30年代から40年代の高度経済成長期と重なります。この時代、日本人の生活様式が大きく変化し、ファッションや住まいに対する意識も変わりました。「ハイセンス」は英語の「high sense(高い感覚)」から来ており、当初は外国映画や海外ファッションを形容する言葉として使われていました。

昭和40年代の広告資料を分析すると、「ハイセンスな装い」「ハイセンスな生活」といったフレーズが頻出し、特に以下の特徴が見られます:

  • モダンさの強調:伝統的な日本美ではなく、欧米的な現代性を評価する文脈で使用
  • 社会的ステータス:「ハイセンス」であることは、一定の教養や経済力を示唆
  • 都会的洗練:主に都市部の生活様式や価値観と結びついていた

国立国語研究所の調査によれば、「ハイセンス」の使用頻度は1960年から1975年にかけて約8倍に増加しており、この時期の美的価値観の変化を如実に表しています。

「すてき」と「ハイセンス」の使い分け

昭和中期(1950〜70年代)において、「すてき」と「ハイセンス」は微妙に異なるニュアンスで使い分けられていました。当時の雑誌や新聞記事を分析すると、以下のような傾向が見られます:

表現 主な使用対象 含意されるイメージ
すてき 人物、振る舞い、自然美 優雅さ、心地よさ、温かみ
ハイセンス インテリア、ファッション、デザイン 先進性、洗練、知性

興味深いのは、「すてき」が感情的・情緒的な美しさを表現するのに対し、「ハイセンス」はより知的で計算された美しさを表現する傾向があった点です。例えば、昭和40年代のファッション雑誌『装苑』では、「すてきな笑顔」と「ハイセンスなコーディネート」といった使い分けが見られます。

昭和末期の美的言葉の転換点

昭和の終わり(1980年代)になると、バブル経済の影響もあり、美的感性を表す言葉にも変化が現れました。「すてき」は徐々に中高年層の言葉というイメージが定着し、若者文化では「イケてる」「カッコいい」などの表現が台頭。一方「ハイセンス」は、過度な消費文化への反動から、時に「見せびらかし」的なニュアンスも帯びるようになりました。

1989年の国語世論調査によれば、20代の若者の間では「すてき」の使用頻度が10年前と比較して約30%減少し、代わりに「イケてる」「チョーかわいい」などの表現が増加していました。これは美的言葉の感性表現変化を示す重要なデータと言えるでしょう。

昭和という時代を通じて、「すてき」から「ハイセンス」へ、そして新たな表現への移り変わりは、日本社会の価値観や美意識の変遷を映し出す鏡となっています。言葉の変化は単なる流行ではなく、私たちの美的センスの形成過程そのものを物語っているのです。

平成のオシャレ革命:「カワイイ」から「オシャレ」へと移り変わる感性表現

平成初期:「カワイイ」文化の全盛期

平成時代の幕開けとともに、日本の美的感覚を表す言葉は大きな変革期を迎えました。バブル経済の余韻が残る90年代初頭、「すてき」や「ハイセンス」といった昭和的表現は徐々に影を潜め、代わりに「カワイイ」という言葉が日本の感性表現の中心に躍り出ました。

この「カワイイ」文化は、単なる幼児性や愛らしさを超えた、日本独自の美的感覚として世界的にも注目されるようになります。原宿・渋谷を中心に広がったデコラ系ファッションや、丸みを帯びたキャラクターデザインなど、「カワイイ」は平成初期の日本の美的センスを象徴する言葉となりました。

国立国語研究所の調査によれば、1990年代の若者言葉において「カワイイ」の使用頻度は、それまでの「すてき」の約3倍にも達していたとされています。この現象は単なる言葉の流行を超え、日本の感性表現の大きな転換点となりました。

2000年代:「オシャレ」という価値観の台頭

平成も中盤に差し掛かる2000年代に入ると、「カワイイ」一辺倒だった美的表現に変化が現れます。インターネットの普及と海外文化の流入により、より洗練された美的感覚を表す「オシャレ」という言葉が若者を中心に広く使われるようになりました。

「オシャレ」は単なる「おしゃれ」という従来の言葉とは異なり、カタカナ表記によって新しい感性や国際的な美意識を含意するようになります。この変化は日本の美的感覚の成熟と国際化を象徴していました。

雑誌『流行語大辞典』の分析によれば、2005年頃から女性ファッション誌における「オシャレ」の使用頻度は年々増加し、2010年には「カワイイ」の使用頻度を上回ったとされています。特に注目すべきは、「オシャレ」が単なる外見だけでなく、ライフスタイル全般を表す言葉として拡大解釈されていった点です。

感性表現の多様化:美的言葉のグラデーション

平成後期になると、美的センスを表す言葉はさらに多様化します。「イケてる」「ヤバい(良い意味で)」「エモい」など、従来の美的言葉では表現できない微妙なニュアンスを持つ言葉が次々と生まれました。これらは単なる流行語ではなく、感性表現の多様化を示す重要な言語現象でした。

特筆すべきは、平成時代を通じて「すてき」「ハイセンス」「カワイイ」「オシャレ」といった言葉が共存し、それぞれが異なる美的価値観を表現する言葉として使い分けられるようになった点です。例えば:

– 「すてき」:品格や上品さを含む伝統的な美しさ
– 「ハイセンス」:洗練された選択眼や審美眼
– 「カワイイ」:愛らしさや親しみやすさを含む日本的美意識
– 「オシャレ」:国際的で現代的なセンスの良さ

これらの言葉は単に入れ替わったのではなく、それぞれが異なる美的価値観を表現する言葉として、世代や文脈によって使い分けられるようになりました。

平成の美的言葉が示す日本人の感性の変化

平成時代の感性表現の変化は、単なる言葉の流行を超えた日本人の美意識の変容を映し出しています。グローバル化とインターネットの普及により、日本独自の「カワイイ」文化が世界に発信される一方で、海外の美的感覚も「オシャレ」という言葉を通じて日本に浸透しました。

社会学者の北田暁大氏は著書『「カワイイ」のゆくえ』で、「平成期の美的言葉の変遷は、日本社会の国際化と価値観の多様化を如実に表している」と指摘しています。実際、美的センスを表す言葉の変化は、単なる言語トレンドではなく、日本人の感性そのものの変化を反映していたのです。

平成という時代は、昭和から引き継いだ「すてき」や「ハイセンス」といった言葉と、新たに生まれた「カワイイ」「オシャレ」といった感性表現が共存し、多様な美的価値観が認められる時代となりました。この多様性こそが、平成時代の美的言葉の最大の特徴と言えるでしょう。

令和時代の美的センス:SNSがもたらした「映える」という新たな価値観

SNSの登場により、私たちの美的感覚は大きく変化しました。「映える」という言葉に代表される令和時代の美意識は、視覚的なインパクトを重視する新たな価値観を生み出しています。昭和の「すてき」、平成の「ハイセンス」「オシャレ」に続く美的センスの表現として、「映える」がどのように日本人の感性に影響を与えているのか、その実態に迫ります。

「インスタ映え」の誕生と普及

2017年、「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれました。Instagram(インスタグラム)に投稿した際に視覚的に魅力的に見える—つまり「映える」ものを指す言葉です。この言葉の登場は、美的センスの表現方法に革命をもたらしました。

それまでの「すてき」や「ハイセンス」が個人の感性や教養に基づく評価だったのに対し、「映える」は他者からの反応(いいね数やコメント)によって価値が決まるという特徴があります。美的感覚が個人の内面から、SNS上での共感や評価という外部要因に左右されるようになったのです。

実際、株式会社MMD研究所の2022年の調査によると、10代〜30代の若年層の約68%が「SNSで見た映えるスポットや商品に行ってみたい・購入したいと思ったことがある」と回答しています。美的センスが消費行動に直結する時代になったといえるでしょう。

「映え」の細分化と新たな美的言葉の誕生

「映える」という美的表現は、SNSの多様化とともにさらに細分化されていきました。

  • ときめき消費:見た目の可愛さや美しさに「ときめく」感覚を重視する消費行動
  • フォトジェニック:写真映えする様子を表す言葉として定着
  • エモい:感情を揺さぶられる、共感を呼ぶ雰囲気や状況を表現

特に「エモい」という表現は、単なる見た目の美しさだけでなく、そこから感じられる情緒や感情までを包括する感性表現変化の典型例です。2018年に若者言葉として注目されたこの言葉は、今や幅広い年代で使われるようになりました。

ある調査によれば、「エモい」という表現を知っている50代は約45%、実際に使用している人も約15%に上るとされています。美的言葉の世代間伝播が加速しているのです。

デジタルネイティブ世代が牽引する新しい美意識

Z世代(1995年〜2010年生まれ)を中心とするデジタルネイティブ世代は、従来の美的センスとは異なる価値観を持っています。彼らにとって、「すてき」という表現はやや古めかしく感じられるかもしれません。

Z世代の美的センスの特徴として、以下の点が挙げられます:

  1. 視覚的インパクトを重視する傾向(色彩の鮮やかさ、構図の面白さ)
  2. ストーリー性や背景にある意味を重視(単なる見た目だけでなく、その背景にある物語や意味合い)
  3. 多様性や個性を尊重する感覚(画一的な美しさよりも、個性的で多様な美しさを評価)

彼らは「#推し活」「#尊い」などの独自のハッシュタグを生み出し、新たなすてき表現のボキャブラリーを拡張し続けています。

美的センスのグローバル化と日本的感性の再評価

SNSの普及は美的センスのグローバル化も促進しました。日本の「カワイイ」文化が世界に広がる一方で、海外の美的感覚も日本に流入しています。

興味深いのは、このグローバル化の中で、日本古来の美意識が再評価されている点です。「侘び・寂び」「余白の美」といった日本的感性が、ミニマリズムやスローライフの文脈で注目を集めています。

日本政府観光局(JNTO)の調査によると、訪日外国人が日本旅行で期待することの上位に「日本的な美意識や繊細さを感じられる体験」が挙げられています。美的センスという観点からも、日本文化の魅力が再認識されているのです。

令和時代の美的センスは、SNSという新たなプラットフォームを通じて、より視覚的、即時的、そして相互作用的なものへと変化しています。「すてき」「ハイセンス」「オシャレ」といった言葉は今も使われていますが、その意味合いや使われ方は時代とともに変容しているのです。美的言葉の変遷は、私たちの感性や価値観の変化を映し出す鏡といえるでしょう。

世代で異なる「すてき」の解釈:美的言葉から見る日本人の感性の変化

世代間ギャップに見る「すてき」の意味合い

「すてき」という言葉の解釈は、世代によって驚くほど異なります。戦後生まれの団塊世代にとって「すてき」は、単なる見た目の美しさを超えた、品格や教養を含む総合的な評価でした。特に昭和30年代から40年代にかけて、「すてき」は西洋的な洗練さを称える言葉として広く使われていました。

一方、1970年代以降に生まれた世代にとっての「すてき」は、より気軽で日常的な表現へと変化しています。調査によると、20代と60代では「すてき」という言葉から連想するイメージに顕著な違いがあり、若年層では「かわいい」「カジュアル」といった要素が強く、高年齢層では「品格」「上品さ」といった要素が強いことがわかっています。

言葉の変遷に見る日本人の美意識の変化

美的言葉の変遷は、日本人の感性の変化を如実に表しています。高度経済成長期には「ハイセンス」という言葉が持てはやされ、バブル期には「オシャレ」が流行語となりました。これらの言葉は単なる流行り言葉ではなく、各時代の価値観や憧れを反映しています。

特に注目すべき点は、「すてき」という言葉が持つ多義性です。言語学者の調査によれば、「すてき」は以下のような時代ごとの特徴的な意味合いを持っていました:

昭和初期:西洋文化への憧れを表す言葉(高級感・特別感)
高度経済成長期:生活の質的向上を象徴する言葉(機能美・実用性)
バブル期:贅沢や華やかさを表現する言葉(派手さ・目立ち)
平成以降:個人の感性や価値観を尊重する言葉(個性・自己表現)

この変化は、日本社会が物質的豊かさを追求する段階から、精神的・個人的な満足を重視する段階へと移行してきたことを示しています。

SNS時代における「すてき表現」の多様化

現代では、SNSの普及により「すてき」を表現する言葉はさらに多様化しています。インスタグラムでのハッシュタグ分析によると、「#すてき」は40代以上のユーザーに多く使われる一方、若年層では「#おしゃ」「#映え」などの短縮形や新語が好まれる傾向があります。

感性表現変化の最前線として、Z世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)の間では、「エモい」「尊い」といった従来の美的言葉の枠組みを超えた表現が登場しています。これらの言葉は単なる見た目の美しさではなく、感情や体験の質を重視する価値観の変化を表しています。

美的言葉から読み解く日本文化の未来

「すてき」「ハイセンス」「オシャレ」といった美的言葉の変遷は、日本文化における美意識の進化を物語っています。かつて西洋文化への憧れから生まれた「すてき」という言葉は、今や日本独自の感性を表現する言葉として定着しています。

言語学者の間では、こうした美的言葉の変化は、グローバル化と日本回帰という二つの相反する力のバランスの上に成り立っているという見方があります。例えば「和モダン」「NEO JAPAN」といった概念の人気は、伝統と革新を融合させた新しい美意識の台頭を示しています。

美的言葉の変遷を追うことは、単なる流行の変化を追うことではなく、日本人の価値観や感性の変化を読み解くことでもあります。「すてき」という一言に込められた意味は、時代とともに変化し続けていますが、その根底にある「美しさへの感度」という日本文化の特質は、形を変えながらも脈々と受け継がれているのです。

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