「お疲れ様」と「ご苦労様」の基本的な意味と使い分け
ビジネスシーンでよく使われる「お疲れ様」と「ご苦労様」。どちらも労いの言葉ですが、使い方を間違えると相手に不快感を与えてしまうことも。この記事では、正しい使い分けについて徹底解説します。
それぞれの言葉の語源と本来の意味
「お疲れ様」の語源と意味
「お疲れ様」は「疲れる」という言葉に丁寧な接頭語「お」と、敬意を表す「様」を付けた表現です。本来は「疲れていらっしゃることでしょう」という意味で、相手の労をねぎらう気持ちを込めています。

特徴的なのは、「お疲れ様」には上下関係なく使えるという点です。目上の人にも目下の人にも使うことができ、「共に同じ目標に向かって頑張った」というニュアンスが含まれています。
「ご苦労様」の語源と意味
一方、「ご苦労様」は「苦労」という言葉に丁寧な接頭語「ご」と、敬意を表す「様」を付けた表現です。「苦労されていることでしょう」という意味で、相手の努力を認め、感謝する気持ちが込められています。
重要なポイントは、「ご苦労様」には目上から目下へという上下関係が含まれるということです。この言葉には「あなたの苦労を私が認めている」というニュアンスがあるため、使用する際には相手との関係性に注意が必要です。
ビジネスシーンでの適切な使い分け方
上司・先輩に対する使い方
上司や先輩に対しては、基本的に「お疲れ様です」を使うのが無難です。
- 朝の挨拶:「おはようございます」
- 日中の挨拶:「お疲れ様です」
- 退社時:「お先に失礼します。お疲れ様です」
- メールの締めくくり:「お忙しいところ恐縮ですが、ご確認よろしくお願いいたします。お疲れ様です」
❌ NGな例 「ご苦労様です」と上司に言うのは避けましょう。「あなたは苦労していますね」と上から目線で言っているように聞こえる可能性があります。
同僚・部下に対する使い方
同僚に対しては「お疲れ様」を使うのが一般的です。部下に対しては「お疲れ様」と「ご苦労様」のどちらも使えますが、状況によって使い分けるとよいでしょう。
- 同僚との挨拶:「お疲れ様」
- 部下への労いの言葉(日常的な業務):「お疲れ様」
- 部下への労いの言葉(特に困難な業務を完遂した時):「ご苦労様でした。素晴らしい仕事ぶりでしたよ」
国立国語研究所の調査(2019年)によると、上司から部下への声かけとして「お疲れ様」を使う割合は約65%、「ご苦労様」を使う割合は約30%という結果が出ています。地域や業界によっても差がありますが、最近は「お疲れ様」の使用頻度が高まっているようです。
間違いやすいシチュエーションとその対処法

朝一番の挨拶で「お疲れ様です」は適切?
朝一番の挨拶として「お疲れ様です」を使うのは、厳密には不適切とされることもあります。まだ仕事を始めていないのに「疲れている」と言うのは矛盾しているからです。しかし、実際のビジネスシーンでは、時間帯を問わず「お疲れ様です」が挨拶として定着しています。
職場の雰囲気に合わせて、朝は「おはようございます」、日中以降は「お疲れ様です」と使い分けるのが理想的でしょう。
電話での締めくくりの言葉は?
電話を終える際の「お疲れ様です」「ご苦労様です」の使い方も迷いがちです。
- 社内の人との電話:「ありがとうございました。お疲れ様です」
- 取引先との電話:「お忙しいところありがとうございました」(「お疲れ様です」は避ける)
取引先に「お疲れ様です」と言うのは、相手の会社の内部事情に踏み込んでいるような印象を与えることがあるため、避けた方が無難です。
いずれにしても、相手との関係性や状況を考慮して、適切な言葉を選ぶことが大切です。言葉の本来の意味を理解した上で、コミュニケーションを円滑に進められるよう心がけましょう。
「お疲れ様」と「ご苦労様」に関する地域差・業界差
「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分けは、実は全国一律ではありません。地域によって使われ方に違いがあり、また業界ごとの文化によっても傾向が分かれます。この違いを知ることで、さまざまな環境でも適切なコミュニケーションが取れるようになるでしょう。
地域によって異なる使用傾向とその背景
東日本と西日本での使い分けの違い
日本の言語文化には、東西で興味深い違いがあります。「お疲れ様」と「ご苦労様」の使用傾向もその一つです。
東日本(特に関東)の傾向:
- 「お疲れ様」を広く使用する傾向がある
- ビジネスシーンでは「お疲れ様です」が標準的な挨拶として定着
- 「ご苦労様」は上司から部下への特別な労いの言葉として限定的に使用
西日本(特に関西)の傾向:
- 「ご苦労様」をより日常的に使用する傾向がある
- 上下関係に関わらず「ご苦労様」を使うケースも多い
- 関西では「おつかれさん」というくだけた表現も一般的

関西弁研究家の金村京子氏によると、「関西では言葉の意味よりも、言い回しのリズムや親しみやすさを重視する傾向があります。そのため、『ご苦労様』も上下関係を意識せず使われることが多いのです」と指摘しています。
実際、2020年の言語使用実態調査(関西言語文化研究会)によれば、関西在住者の約45%が「上司に対しても『ご苦労様』を使うことがある」と回答しており、関東在住者(約15%)と大きな差があることがわかっています。
方言による「お疲れ様」「ご苦労様」の代替表現
地方によっては、「お疲れ様」「ご苦労様」の代わりとなる独自の表現も使われています。
地域 | 代表的な表現 | 使用シーン |
---|---|---|
北海道 | 「たいしたもんだ」 | 労いの言葉として |
東北 | 「ごくろうさま」「たいぎだったね」 | 日常的な労いの言葉 |
九州 | 「しよんなった」 | 仕事を終えた人への労いの言葉 |
沖縄 | 「くたびれーさまよー」 | 親しい間柄での労いの言葉 |
これらの方言表現は、地域のアイデンティティを反映しており、地元の人との会話では親近感を生み出す効果があります。ただし、公式な場面ではやはり標準語の「お疲れ様」「ご苦労様」を適切に使い分けることが望ましいでしょう。
業界特有の「お疲れ様」「ご苦労様」の使い方
IT業界・クリエイティブ業界での傾向
近年急速に発展しているIT業界やクリエイティブ業界では、従来の企業文化とは異なる独自のコミュニケーションスタイルが発達しています。
IT業界の特徴:
- フラットな組織文化を反映し、「お疲れ様」を幅広く使用
- チャットツールでは「おつ」「おつかれ」などの略語も一般的
- 外資系企業では「Thanks for your hard work」「Good job」などの英語表現が混じることも
クリエイティブ業界の特徴:
- デザイン事務所や広告代理店では、上下関係よりもプロジェクトへの貢献度が重視される
- 「ナイスワーク」「グッジョブ」など、成果を称える表現が多い
- 「お疲れ」と省略した形や、業界特有のスラングが使われることも
IT企業のコミュニケーション調査(2022年)によると、Slack等のチャットツールでは「おつ」「おつかれ」などの略語使用が約60%、「お疲れ様です」の正式表現が約30%、その他の表現が約10%という結果が出ています。
製造業・サービス業での傾向
一方、伝統的な製造業やサービス業では、従来の日本的な上下関係を重視する傾向が残っています。
製造業の特徴:
- 工場などの現場では、「ご苦労様」が上司から部下へよく使われる
- 朝礼や終礼などの公式な場では、「お疲れ様でした」が一斉に使われることが多い
- 「安全第一」「品質第一」など、仕事の内容に即した挨拶が「お疲れ様」と併用される
サービス業の特徴:
- 接客業では、社内コミュニケーションと顧客対応で使い分けが明確
- ホテルや旅館では、「お疲れ様」よりも「ありがとうございました」「またのお越しをお待ちしております」など、感謝の言葉が中心
- 飲食店のキッチンでは「ご苦労様」が使われることが多い

東京商工会議所の業界別コミュニケーション調査(2021年)によると、製造業では管理職から一般社員への声かけとして「ご苦労様」を使う割合が約55%と、全業種平均(約30%)より高いことが分かっています。
地域や業界による違いを理解し、自分が所属する環境に合わせた適切な表現を選ぶことで、円滑なコミュニケーションが図れます。ただし、基本的なビジネスマナーを踏まえた上で、相手に敬意を示す姿勢を忘れないことが大切です。
最新のビジネスマナーから見る「お疲れ様」と「ご苦労様」
ビジネスの世界は常に変化しており、それに伴いビジネスマナーも進化しています。特に「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い方は、働き方や組織文化の変化とともに新たな傾向が生まれています。ここでは、最新のビジネスマナーの観点から、これらの言葉の適切な使い方を探っていきましょう。
時代とともに変化する敬語の使い方
かつての日本企業では、厳格な上下関係に基づいた敬語の使い分けが一般的でした。しかし、近年ではフラットな組織構造や多様な働き方の広がりにより、敬語の使い方にも変化が見られます。
従来のビジネスマナー:
- 上司→部下:「ご苦労様」
- 部下→上司:「お疲れ様です」
- 同僚間:状況による使い分け
現代のビジネスマナー:
- 「お疲れ様です」が汎用的な表現として広く浸透
- 役職に関わらず「お疲れ様です」を使うケースが増加
- 「ご苦労様」の使用頻度は徐々に減少傾向
日本マナー協会が2023年に実施した調査によると、20代〜30代のビジネスパーソンの約75%が「役職に関わらず『お疲れ様です』を使用している」と回答しています。一方、50代以上では約45%にとどまり、世代間でも違いが見られます。
ビジネスコンサルタント・田中正子氏のコメント:
「現代のビジネスシーンでは、チームワークや協働の価値が高まっています。そのため、上下関係を強調する『ご苦労様』よりも、同じ目標に向かって共に働く仲間という意識を反映した『お疲れ様』が好まれる傾向にあります。ただし、伝統的な業界や組織では従来のマナーが尊重されることも多いため、環境に応じた使い分けが求められます。」
また、リモートワークの普及により、オフィスでの対面コミュニケーションが減少した結果、文字によるコミュニケーションの重要性が高まっています。これにより、「お疲れ様」「ご苦労様」の使い方にも新たな視点が必要となっています。
メールやチャットツールでの「お疲れ様」「ご苦労様」
ビジネスメールでの効果的な使い方
ビジネスメールでは、冒頭の挨拶と結びの言葉が重要です。「お疲れ様」「ご苦労様」をメールで使う際のポイントを見ていきましょう。
メール冒頭での使い方:
- 社内メール:「お疲れ様です。〇〇部の△△です。」
- 取引先へのメール:「いつもお世話になっております。〇〇株式会社の△△です。」 (「お疲れ様です」は基本的に社内向け)

メール結びでの使い方:
- 上司へのメール:「ご確認のほど、よろしくお願いいたします。」 (「お疲れ様です」は不要なことが多い)
- 同僚・部下へのメール:「よろしくお願いいたします。お疲れ様です。」
業界別メールマナー調査(2023年)によるメール結びの表現比率:
業種 | 「お疲れ様です」使用率 | 「よろしくお願いします」のみ | その他 |
---|---|---|---|
IT・通信 | 62% | 35% | 3% |
金融・保険 | 28% | 68% | 4% |
製造業 | 45% | 50% | 5% |
サービス業 | 53% | 42% | 5% |
SlackやTeamsなどチャットツールでの適切な表現
ビジネスチャットツールの普及により、よりカジュアルかつ即時的なコミュニケーションが増えています。こうしたツールでの「お疲れ様」「ご苦労様」の使い方には、いくつかの新しい傾向が見られます。
チャットツールでよく使われる表現:
- 「おつかれさまです」:フォーマルな表現(公式チャンネルなど)
- 「おつです」「おつ」:カジュアルな表現(チーム内のプライベートチャンネルなど)
- スタンプや絵文字:👋 🙌 ✨ などで労いの気持ちを表現
効果的な使い方のポイント:
- 時間帯に応じた使い分け 朝:「おはようございます」 日中:「お疲れ様です」 夜間・休日の作業後:「お疲れ様でした」
- チャンネルの性質による使い分け 公式・全社チャンネル:「お疲れ様です」などのフォーマルな表現 プロジェクトチーム内:状況に応じてカジュアルな表現も可
- メッセージの目的による使い分け 作業依頼時:「お手数ですが〜」(「お疲れ様」は不要) 作業完了報告への返信:「お疲れ様でした。ありがとうございます」
デジタルコミュニケーション専門家・山田健太郎氏によると、「チャットツールでは『おつ』などの略語が増えていますが、これは単なる省略ではなく、親しみやすさや即時性を重視する文化の表れです。ただし、公式の場では従来のマナーを守ることも大切です」とのことです。
外国人との仕事における「お疲れ様」「ご苦労様」の英語表現
グローバル化が進む現代のビジネスシーンでは、外国人との協働も増えています。「お疲れ様」「ご苦労様」に相当する英語表現を知っておくと、国際的なコミュニケーションでも役立ちます。
「お疲れ様」の英語表現:
- “Thank you for your hard work.”(あなたの頑張りに感謝します)
- “Good job today.”(今日もよく頑張りましたね)
- “You’ve been working hard.”(よく頑張っていますね)

「ご苦労様」の英語表現:
- “I appreciate your efforts.”(あなたの努力に感謝します)
- “Well done on completing that difficult task.”(難しい仕事をよくやり遂げましたね)
- “Thanks for taking on that challenge.”(その難題に取り組んでくれてありがとう)
国際ビジネスでの使い方のポイント:
- 英語圏では日本ほど挨拶としての労いの言葉は頻繁に使わない
- 本当に大変な仕事の後や、特別な成果を出した時に使うとより効果的
- メールの締めくくりには “Best regards” や “Thank you” が一般的
グローバル人材育成コンサルタントの佐藤真理氏は、「日本語の『お疲れ様』に完全に対応する英語表現はありません。状況に応じて適切な表現を選ぶことが大切です。英語圏では労いよりも成果を称える表現が好まれる傾向にあります」と指摘しています。
時代の変化に伴い、「お疲れ様」「ご苦労様」の使い方も進化しています。従来のマナーを尊重しつつも、新しい働き方や多様な価値観に合わせて柔軟に対応することが、現代のビジネスパーソンには求められるでしょう。最終的には、相手を尊重し、感謝の気持ちを伝えるという本質を忘れないことが大切です。
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